日本展示学会第24回研究大会 研究発表梗概
博物館の展示空間を使った介護予防プログラムの開発にむけて
  ―「高齢者げんきプロジェクト」の取り組み―

『展示学 第40号』(日本展示学会)2005.11.1
 小林淳一、江里口友子、橋本由起子(江戸東京博物館)
 鈴木隆雄、小林江里香、権藤恭之、深谷太郎(東京都老人総合研究所)
 山村健一郎(株式会社トータルメディア開発研究所)
 福島正和、幡野由夏、重盛恭一、松尾知、永田たくみ(株式会社文化総合研究所)
 

1.共同研究事業「高齢者げんきプロジェクト」
 江戸東京博物館では、平成16年度より東京都老人総合研究所、株式会社トータルメディア開発研究所、株式会社文化総合研究所と、「博物館資源(もの・人・場)」を用いて、高齢者の心身の健康増進を目指す共同研究事業「高齢者げんきプロジェクト」をおこなっている。
江戸東京博物館の利用者には高齢者が多く、館ではいわゆるバリアフリーの博物館づくりに努めてきた。しかし近年、高齢者の介護問題が国民的課題となるにつれ、博物館の新たな可能性を追求すべく積極的に高齢者に携わろうと、高齢者福祉の専門研究機関、企業とパートナーシップを組み、介護予防プログラムの開発をはじめた。

 


 
    なじみの生活環境づくりの考え方
高齢者が過去の記憶を呼び起こせる、「もの」と「場」を設定。
また、高齢者が思い出を語ることのできる交流スタッフ(「人」)を配置し、さ らに生き生きとする環境をつくった。
 
 

2.「体験コーナー」での取り組み
(1) 「体験コーナー」に昭和初期住宅を再現
 平成16年4月、江戸東京博物館常設展示室内の「体験コーナー」に昭和前期の住宅の一部を再現した。部屋の中には当時の生活道具を置き、来館者が自由に上がって手に取ることができるようにした。建物はあえてバリアフリーにはせず、かつて都内板橋区にあった建売住宅をモデルに、段差も通路幅も当時のままにつくっている。高齢者がなじんできた生活環境をそのままに再現することで、高齢者が過去の記憶を呼び起こし、生き生きとした時間と空間を取り戻せる場所をつくった。

(2) 交流スタッフの活動
ここには、高齢者の体験を手助けするスタッフが常駐し、安全管理に努めるとともに、高齢者が自分の中に湧き上がった思い出を、いつでも気軽に語れるようにしている。スタッフは高齢者との交流の内容を記録し、プログラム開発のためのデータを収集する。また、高齢者の知識を他の来館者へ伝えるなど、高齢者と他の来館者との世代を超えた交流を取りもつ役割も果たしている。

 

 
  「体験コーナー」再現住宅
昭和20年代後半の暮らしを再現。
季節感も取り入れて、高齢者から自然に会話が生まれる工夫を行っている。
  再現住宅内部の様子
実際に手に取ることができる当時の生活道具を設置。
使うときの仕草なども再現しながら、思い出を語っていただけるようにしている。
 

3.今後の展望
(1) 介護予防プログラムの開発
 スタッフの交流の記録から、それぞれの「もの」に対する高齢者の反応を分析し、特性(年齢・性別・出身地・職業など)に応じた「思い出キット」の開発をすすめていく。これに加えて、キットの使い方をまとめて「もの」を使った介護予防プログラムのモデルをつくる。
 一方、地域の高齢者から過去の様子を聞き取り、学芸員と高齢者が一緒に、その内容をもとにした地域の地図を作成していく。それをさらに発展させ、認知症のリスク要因を減らすプログラムも開発する。

(2) さらなる連携へ
 今後は、行政、福祉施設、そして館内でのプログラム実施者として期待されるボランティアとの連携が予想される。「高齢者げんきプロジェクト」の推進が、江戸東京博物館における高齢者事業の新たな展開となり、さらに国内外の博物館の活動の参考となることを目指していく。

※平成16年度のプロジェクトメンバーには、小林克、早川典子、田中裕二(江戸東京博物館)も参加。

 


 
     
    「高齢者げんきプロジェクト」のパートナーシップ
介護予防プログラムの開発に向けて、それぞれの専門領域を活かしたパートナー シップを取っている。
今後は、点線でつながれた「博物館ボランティア」「墨田区(博物館の地元行政)」「介護福祉施設」との連携も目指す。
 
 
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