映像制作を体験した子どもたち〜東京大学サマーキャンプの12日間〜
『視聴覚教育』(財団法人日本視聴覚教育協会)2003.10  橋本知子
 

1.はじめに
 「皆さんは今まで、大学の中に入ったことがありますか?」。都内の小中学校が夏休みに入って間もなくの7月24日、『東京大学サマーキャンプ』はそんな問いかけから始まった。
 2003年夏、子ども向けの参加型創造・表現活動を推進するNPO法人CANVASの主催により、日本では新しい試みとなる大学キャンパス内での“サマーキャンプ”が、東京駒場の東京大学先端科学技術研究センターで開催された。
 “心で感じ・頭で考え・手で表現する過程を通して、創造力・表現力・メディアリテラシーをを養うと同時に将来の職業感や進学感を培う機会にもつなげたい”という主旨のもとに、徹底した本物体験によるメディアリテラシー体感の12日間となっていた。
 デジタル映画制作コースが、7月24日〜26日と8月21日〜23日の2回。デジタルアニメーション制作コースが、7月31日〜8月2日と8月7日〜8月9日の2回。各日9:30から15:30(休憩1時間)、3日間で15時間のコースが合計4回で12日間。小学校2年生から中学校3年生まで、延べ81名が参加した。
 子どもたちによるアンケート結果では、80%が「とても楽しかった」残りの20%が「楽しかった」と答えている。その思いは記号に○を付けるだけではおさまらなかったらしく、自由記述欄には「すご〜いすご〜い楽しかったデス(お花)」「とってもぉー×1000たのしかった(ハート)」「まんぞくしたGOOD◎」「メチャHAPPYな気分(ハート)」「感動☆またこういうキカイがあったら参加したい☆」などの言葉が溢れていた。
 何が彼らをこんなにも楽しませ、夢中にさせ、満足させたのだろうか。

2.3日間のプログラム
1)機材及び映像編集ソフト
 基本的な機材は、「デジタルビデオカメラ」「マイク」「ノートパソコン」「三脚」で、映像編集ソフトは「Adobe Premiere Ver.6.5」を使用し、アニメーションのコマ撮りには「AURA DV Ver1.0」を使用した。

  教室の机の上に並ぶデジタルビデオカメラ・マイク・ノートパソコン
  ▲デジタルビデオカメラ・マイク・ノートパソコンといった機材が並ぶ。これらの機材にはじめて触れるという子どもも多かったが、あっという間に使い方をマスターしてしまう。

2)スタッフ
 全体のファシリテーターが1名、グループ毎に1名のアシスタントスタッフ、各回2名のテクニカルスタッフと1名の記録担当といった正規スタッフのほか、特別講師、ボランティアなども含め充実した陣容で推進された。
 アシスタントスタッフとテクニカルスタッフには事前講習が実施され、映像制作の流れやソフトの使い方が説明された。それでも子どもたちからの要求は高く、期間中スタッフたちが居残りでソフトの使い方を学んでいた姿を何度も見かけた。

3)カリキュラム
●映画制作コース・スケジュール


午前 開校式・アイスブレーク
映画制作についての解説
ロケハン(撮影場所を探す)
ストーリー作成
シナリオ作成・配役決定
午後 絵コンテ作成
使用機材説明
撮影-1


午前 撮影-2
午後 撮影-3(撮り残し等追加撮影)
使用ソフト説明
編集-1(キャプチャ・ラフ編集)


午前 編集-2
(タイトル・BGM・効果音等)
午後 編集-3(追加作業)
作品発表会
講評
修了式
●アニメーション制作コース・スケジュール


午前 開校式・アイスブレーク
アニメ制作について解説
キャラクター作成
ストーリー作成
絵コンテ作成
午後 粘土をつかったキャラクター制作
使用機材・ソフト説明
撮影-1


午前 撮影-2
午後  
編集-1(ラフ編集)
 


午前 編集-2
(タイトル・BGM・効果音等)
午後 編集-3(追加作業)
作品発表会
講評
修了式

 映画制作、アニメ制作それぞれのスケジュールは上の表のとおりである。
 初めて出会った子どもたちは3〜4名で一つのグループとなり、各人のニックネームとグループ名を決め、3日間で映画制作では約5分、アニメーション制作では約1分の作品を作り上げていく。
 子ども側の事前準備は何もなく、制作する映像についてのテーマや課題も設定されていない。真っ白な状態から、子どもたち自身ですべてをつくり上げていくのである。
 映画制作では、キャンパス内のロケハンを進める中で作品のイメージを固めていく。ホラー作品や出演者に白衣の研究者が多かったのは、大学がそういうイメージだったからなのだろうか。
 アニメ制作では、各人が思い思いのキャラクターをデザインするところから始まる。そこからストーリーを考え新たなキャラクターをつくり出すグループもあれば、最初のキャラクターだけで仕上げてしまうグループもある。「豆」「かえる」「忍者」「酔っぱらいのサラリーマン」で一体どんな作品になるのか…。
 ワークシートを使いながら進められていくが、それぞれの段階で、ファシリテーターや特別講師として参加したプロのCGアーティストや演出家から、具体的な説明が加えられた。
 “起承転結”のストーリー展開、配役やキャラクターの個性の表現方法、せりふかナレーションか文字かによる伝わり方の違いなどに加え、映画制作であればカメラ位置による表現の差違、アニメ制作であれば1コマ毎の動かし方の度合いなど、子どもたちの様子を見ながら進度に合わせて語られるアドバイスには、マニュアルにはないプロならではの感性が盛り込まれていた。
 自分たちでキャラクターをデザインし、配役を決め、ストーリーをつくり、場面を構成し、せりふを考える。映画では、小物や衣装も自分たちで準備し役作りにこだわる。アニメでは飛んでるように見せる工夫、モクモクと煙が立ち上るように見せる工夫などグループ全体で知恵を出し合う。
 撮影も自分たちで行う。撮影場所を探し、アングルを決め何度もリハーサルをして本番に臨む。全員が納得するまで何度も撮影は繰り返される。
 編集もまた自分たちで行う。映像の長さを決め、背景やBGM、効果音などを合成し、タイトルとエンドロールも加える。
 昼休みも取らずに撮影している子、遅くまで居残って編集を進めている子などに加え、保護者の方からは「家に帰って来てからずっと、サマーキャンプの事ばかり話していました」「毎晩、明日が楽しみと言ってベッドに入りました」「朝一度も自分で起きたことのなかった子が、この3日間は起こす前に目覚めていました」という声が聞かれ、子どもたちの熱中ぶりがうかがえた。
 最後は、保護者の方を招いての完成試写会となる。大きな拍手と共に作品紹介が終わると、誇らしげな顔や思うようにいかなかった悔しさを隠しきれない顔、本当に楽しそうな顔などさまざまである。しかしながら、その誰もが達成感と満足感にあふれたとても豊かな表情であった。

3人のこどもがストーリーを練っている様子
ストーリー・シナリオ・絵コンテの制作をすべての子どもたち自身で行う。
 
4人の子どもがカメラのファインダーをのぞきこんでいる様子
画面をのぞく子どもたちの表情は、真剣そのものであった
ねんどを手でこねて作品をつくる子どもの様子
アニメ制作コースでは、ねんどを使ってキャラクターや小道具などをひとつひとつ作っていく。
 
ノートパソコンで映像編集をする子どもの様子
ストーリーメモを片手に、編集作業を進める。
子どもの年齢が上がるにつれ、「編集が一番楽しかった」という意見が多くなっていった。

3.サマーキャンプの複合的要素
1)導入としてのしつらえ
 ここで一番最初の問いかけに戻ろう。これまでに大学に入ったことがあったのは、22名中たった一人であった。子どもたちにとって、大学のキャンパスとは異空間なのである。
 大きな構えの門をくぐり、高く生い茂ったシンボルツリーを通り越し、時計台のある古めかしい校舎にたどり着く。1分ほどの距離の中で、子どもたちはどれほどの期待とどれほどの緊張を感じたことだろう。
 これから3日間の非日常的体験への導入として、なんと効果的な装置であったことか。大学という場でサマーキャンプを開催するということの持つ意味と効用の一つが、期せずして大きく作用した瞬間であった。

2)グループでの作業と3日間という期間
 「学校も住む所も学年も違う友だちが出来て、とってもうれしかった」。これもアンケートに多く記された感想である。3日間のグループ作業では、多くの新たな友情が育まれていった。そしてまた、全く新しい関係性の中では今までとは違う自分と出会うことも可能になるかもしれない。
 4名で作品を完成させるには、各自が役割をきちんとこなしていかなくてはならない。そんな中で、それぞれが自らの得意とする事を見つけだし熱心に作業を進める姿はとても印象深かった。
 ストーリーやせりふ決めでは他人事のようだったのにカメラを手にしたとたん名演出家に変身していたり、初日も2日目もつまらなそうにしていたのに編集作業では主役になっていたり。
 短時間のワークショップでは、各人のここまでのかかわりあい方の変化を見ることは難しいに違いない。これは、サーマーキャンプというまとまった期間を要するワークショップの成せる技、といえるのではないだろうか。
 
3)完成試写会とWEBでの公開
 もし、この映像制作で“完成”が求められていなかったら、結果はどうなっていただろうか。
 自己の創造表現活動の結果である完成作品、その発表の場が、試写会とWEBでの公開としてきちんと用意されていたということは、モチベーションを高める上でも、真剣さを引き出す上でも非常に有効に作用したと思われる。

4.おわりに
 今回の東京大学サマーキャンプでは、自分たちですべてを行うという制作過程のみならず、前述のような一つひとつの要因が渾然と関連しあうことで、子どもたちにとって深い満足感を得られる体験となったと思われる。
 メディアリテラシーへの取り組みは日本ではまだ緒についたばかりではあるが、メディアとのかかわりあい方の能力を自ら会得していかなければ、どんどん生きづらくなっていくに違いないという現実は、眼前に突きつけられている。
 このような時代の中、心底楽しむことができ、本気で参画することができる映像制作体験の中に、メディアリテラシー育成のための本質を見つけることができるかもしれない。

 

子どもたちの作品から@東京大学サマーキャンプで制作された22本の作品は、NPO法人CANVASのWEBで見ることが出来る。
 http://www.canvas.ws
3人のこどもがストーリーを練っている様子

■映画制作コース:「百物語」
百物語(ひゃくものがたり)をやってみようとあつまったなかまたち。いよいよ100こめの物語がはじまりました・・・。みんなをまつのは…。
 

 
4人の子どもがカメラのファインダーをのぞきこんでいる様子
●アニメ制作コース:
  「ガブガブの災難」

ガブガブにはひとつなやみがありました。そのなやみをかいけつするため、Dr.ペンシルとニャロメンの2ひきがおてつだい。さて、なやみをかいけつできるでしょうか・・・。
 
ねんどを手でこねて作品をつくる子どもの様子
■ 映画制作コース:「力の戦い」
お父さんとお母さん、そしておにいちゃんをころされてしまったあいてに戦(たたか)いをいどむため、しゅぎょうをする。さいきょうのてきをあいてに、はたして勝てるのか!?
 
ノートパソコンで映像編集をする子どもの様子
●アニメ制作コース:
  「TREASURE HUNT」

3人で宝探しにこわい森に入っていきます。キャラクターのひょうじょうがとってもリアルです。宝箱をみごとにみつけたあと、びっくりのラストシーンが!
 


■東京大学サマーキャンプ■
主催:CANVAS
協力:東京大学先端科学技術研究センター/スタンフォード日本センター/フューチャーキッズ
後援:総務省/財団法人マルチメディア振興センター
協賛:アドビシステムズ株式会社/アンフィニ/キャノン販売株式会社/マクロメディア株式会社

 
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