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会期:平成14年9月14日(土)〜同年10月14日(月)
会場:名古屋市博物館1階 特別展示室・部門展示室
主催:名古屋市博物館・中日新聞社
平成14年秋、名古屋市博物館で名古屋の盛り場をテーマにした特別展が開催された。まずはその広報チラシの呼び込み口上を紹介しよう。
「はい、どうぞいらっしゃいませ。ちょうど、展覧会が始まります。どうぞ、お連れ様もご一緒にお入りください。後からお出くださったお客様は、見世物が中心の展覧会がみられないかもしれません。こういう変わった展覧会は、名古屋市博物館が初めてでございます。昔はね、もう、どこのお祭りに行っても、見世物が軒を連ねてやっておりました。今では、見世物も少なくなりました。だから、博物館で展覧会にしようとなったんです。…」
この威勢のよい口上は展示の概要やコンセプトを述べたあと、この特別展への呼び込と続いていく。この口上の文も実際の見世物の口上を参考に作成されたものである。本特別展は、近世の盛り場や見世物に関する歴史的な資料の公開に始まり、当時見世物として扱われた動物の剥製、祭礼の道具を見せ、さらに近代、現代の盛り場の変遷盛衰復興を扱っている。また、現在の大道芸の実演やワークショップも館内で行った楽しいイベントである。
■盛り場の実態が浮かぶ豊富な資料の展示 まずは、特別展の展示会場見所を紹介する。
展示は本博物館の特別展示室で展開され、見世物関係の歴史資料展示や近代現代の盛り場興行関係資料の他に、覗きからくりや見世物祭礼等の展示物が楽しい。中でも近世の記録に基づいたラクダ、トラ、ヒョウの展示の印象は強い。和室風展示ステージに緋毛氈を敷いた剥製群が展示室をつなぐ廊下の先から睨んでいるのである。また、現代の大道芸のコーナーにおける芸人の人形展示も面白い。人形の化粧や衣裳を本人に似させ、人形そのものに存在感がある。時に本物の芸人に入れ替わり、来館者を驚かせて楽しませるイベントもある。展示全体としては、博物館の研究成果としての資料展示をベースに、来館者に身近で懐かしい現代の盛り場や興行の資料や写真、子どもを楽しませるイベント的な展示手法等を上手に融合展開する充実した内容であった。
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会場入り口
1階エントランスに面した入り口。雨天には大道芸パフォーマンススペースに早代わり |
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名古屋の盛り場関係資料展示
近世の盛り場が描かれた地図や絵図、芝居や見世物の番付、盛り場を巡った人々の日記など。日記の中には楽しげな絵も沢山描かれている。また、富くじの箱、覗き眼鏡型のからくりなど、見世物の道具もある |
祭礼「馬の塔」飾り展示
馬の塔の飾り。近世では本物の馬で練り歩いたが、実物の馬では難しくなった現在もこのような標具を用いて、祭りの心は今もつながっている(大須観音 蔵) |
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近代から現代へ盛り場の変遷
名古屋を代表する盛り場、大須の変遷を写真やチラシ、ポスターでつづる
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大道芸人の人形展示
実際に活躍している芸人の方々のそっくり人形展示。時には本物の芸人さんに入れ替わり、来館者をびっくりさせることもある
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盛り場復興の動きの展示
近代化の中で滅びかけた盛り場を復興させる人々や活動の展示 |
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現代大道芸の道具展示
現役の大道芸の道具。このまま使えそうな物ばかり |
■見世物の世界を体験
大道芸実演とワークショップ
この特別展の関連イベントとして、期間中の土日に大道芸の実演とワークショップが行われた。
大道芸の実演は3、4人の芸人が入れ替わりでジャグリング(ピンやボールなどを投げてつかむ芸)独楽回し、マジック・バルーン作り等を披露した。会場は博物館敷地内の公園、雨天の場合は本特別展示室入り口にあたる1階エントランスで行われた。(取材日は残念ながら、雨天であった)。芸人の皆さんはピエロ風、カラフルな衣裳、からくり芸人風と様々で、鮮やかな芸、ユーモラスで巧みな会話によって、このイベントの為に来た人や他の展示室を訪れた来館者も巻き込み、楽しませていた。皆さんは名古屋の中心部にある大須という寺社門前の盛り場のイベントでも活躍している方々である。なお、大須の盛り場は近世に成立し、戦後は衰退していたが、昭和53年頃から地元や興行関係の方々によって新旧様々なイベントが打ち出され、現在も続いている。展示室ではこの大須の成立と盛衰、復興への努力も扱っている。博物館では大須の大道芸関係者や観客についても実態調査や意識調査を実施しており、調査の成果の一部は本特別展の図録に掲載されている。
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雨天の大道芸会場
展示室前エントランスが雨天の会場。高く舞い上がったピンやボールをキャッチすると館内に歓声が響く(ココロ) |
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職員はハッピ
本イベントにあつらえたハッピは主催者の目印 |
ワークショップはバルーン(風船)作りの教室、フェイスペインティング、独楽回し教室が行われた。筆者が取材した時はバルーン教室で、館内の展示説明室に親子連れを中心に参加していた。講師のメインは大道芸芸人の方々で、博物館関係者は材料を配り、子ども達の作業をサポートしていた。細長い風船を割れないように恐る恐るねじりながらプードルやコアラなどの動物を作りあげていく。芸人の巧みな会話、風船のカラフルな色、愉快な動物の形が楽しい。なお、博物館関係者がこのイベント用のハッピを着てイベントを盛り上げていた。
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講師はピエロ
大道芸のピエロがワークショップの講師
(ピエロのトントさん)
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職員はサポーター
親子に風船を配る博物館の皆さん。風船は沢山必要 |
■展示ストーリーを生み出す
コンテンツの出版事業
本特別展示は名古屋の盛り場の歴史や実態を紹介し、その楽しさを追体験させようとするものであり、これには昔の盛り場の状況や実態の資料記録が必要である。そこで展示や図録で当時の人々が盛り場を訪れた日記や記録が豊富に紹介されていた。特に江戸時代半ばの文筆家兼画家
猿猴庵(えんこうあん・本名 高力種信)の作品は大変価値が高く、彼の著作は多数であるが、中でも『猿猴庵日記』によって江戸時代後期の名古屋見世物事情を概括し、『新卑姑射(しん
ひごや)文庫』で見世物小屋を追体験できるという。(「卑姑射」とは「日小屋」とも書き、常設でなく仮設の小屋を意味する)。この『新卑姑射文庫』を始めとする猿猴庵関係の新発見資料を基に名古屋市博物館では「猿猴庵の本」として研究出版事業を継続している。
刊行された本を手にしたが、絵が実に楽しく、見世物そのものは材質やスケール、構成が具体的に判るように、また、それを見て楽しむ人々の姿、風俗、やりとりも描かれている。文章も洒落やユーモアたっぷりである。頁構成は実際の見世物を巡る様に展開され、当時の見世物の世界を具体的に知ることが出来る。博物館出版物から一部を紹介する。
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名古屋市博物館の「猿猴庵の本」出版事業から『新卑姑射文庫 初編』の表紙 |
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見世物の会場
『新卑姑射文庫 初編』記載の籠細工見世物が行われた盛り場メッカ「七つ寺」境内の絵図 |
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最上の細工
猿猴庵が、この見世物小屋で最良、「生けるがごとし」と評する象の細工 |
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この特別展は展示、大道芸実演、ワークショップが連携して盛り場のイメージを再現した、楽しいイベントであった。このような総合的なイベントを展開するには「猿猴庵の本」出版事業で見られたように、盛り場についての研究成果がベースにあるからと考える。
ところで、近年テーマパークやイベント事業の衰退が激しい。この理由を経済事情から説明することが多いが、それだけでなく、外国のものをそのまま引用したり、根拠に乏しい一過性の内容なども原因ではないかと思う。我々の祖先が、長い歴史の中で楽しんで来たことを振り返り、現代に合わせて蘇らせることの方が意味もあり継続できることと考える。また、面白いからくりや様々な細工の紹介があったが、その復元や再現が出来たら良いと思う。筆者も今まで、「覗きからくり」の再現や「生き人形」の見世物の展示に携ったことがあるが、インパクトが強く、来館者の評判も良かった。新しい展示手法を開発するヒントも歴史の中にあると思われる。
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