資料紹介 BOOK 『おススメ博物館』
『展示学 第34号』(日本展示学会)2002.11.1 橋本知子
 
 

 「モンパチがインディーズ史上初ミリオン!」。翻訳するなら『“モンゴル800”というインディーズのバンドが、マスコミに一切出ていないのにもかかわらず、CDを100万枚以上売り上げた』ということ。2002年春の話題であった。
 この現象は、若者たちの間でいわゆるクチコミ(今ならさしずめメルコミ?)によって情報が広まった所以といわれている。この例に限らず、マーケティングの領域では「クチコミ」の威力は注目されている。
 なぜクチコミは影響力が大きいのか。多分に、自分と同じ目線、同じ感覚を持っている人の判断なら、自分も同感できるはず、という心理によるものではないかと思う。売らんかな主義のごまかしや嘘の無い、本当の声を求めているからともいえるかもしれない。
 ひるがえって、博物館。ガイドブックや案内書は数限りなく出ているが、知識や情報として“読むための”本となってしまっているものが多いように感じる。その本を手にとった後、掲載されている博物館に行ってみようと思える、いわゆるクチコミ情報本があまり出現しなかったのは何ゆえか。
 本書『おススメ博物館』は、利用者としての目線で良し悪しを含め率直な感想でまとめられた、まさしく“行ってみたくなる”クチコミ博物館紹介本である。その館ごとの問題点なども書かれているが、だからこそ信じるに値すると思えるのである。同時に、課題や批判にも「こうなったらもっと良くなるのに」という著者の博物館に対する愛情が感じられ、“行ってみたい”という気持ちを一層喚起させる。
 取り上げられているのは50館。目次を眺めていても館を選んだ基準が分からない。と、前書きに『ここに取り上げた50館は「ユニーク」、「マイナー」、「新しい」、「応援したくなった」、「つくりたいという個人の意志が感じられた」などが選択の基準になっている。いずれにせよ、著者個人の目から見た、きわめて不公平、えこひいきなガイドである。』ということわり書きを見つけた。この割り切りの良い強い意志が、本書のクチコミ的真実度を増している要因なのだろう。
 元科学・技術系の新聞記者であった著者の視線は、時にかなりのマニアックさで展示資料に迫る。反面、極めて一般的な観覧者として感想を述べていたりする。そのブレ加減がまた、単なるガイドブックではない読みものとしての面白さの隠し味となっている。
 私のこのクチコミで、さて何人がこの本を手にとって下さるのだろうか。

(小泉成史:著 文春新書 690円+税 2002.05.20:発行)

 
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