第21回大会研究発表梗概
展示解説パネルにおける色覚バリアフリーへの提言

『展示学 第34号』(日本展示学会)2002.11.1 
 

 伊藤  啓(東京大学分子細胞生物学研究所/岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所)
 橋本 知子(株式会社文化総合研究所)

■はじめに
 平成12年版総務省編『障害者白書』によると、聴覚・言語障害者、視覚障害者、肢体不自由者、内部障害者の数は以下の表のようになっている。

障害の種類別に見た身体障害者数
障害種別
人数
在宅者
聴覚・言語障害
366,400
視覚障害
310,600
肢体不自由
1,698,400
内部障害
639,200
施設入所者
162,000
3,176,600

 では、「色盲」(色覚障害)の場合はどうであろう。詳しい説明は以下にまとめるが、ほとんどは遺伝によるものであり黄色人種では男性の5%、女性の0.2%(白人男性8%、黒人男性4%)に見られる。上記調査同時期の日本人男性は6,111万人、女性は6,359万人(平成8年10月現在)であるから、色盲の人は約318万人となり、身体障害者の総計を越える数となっているのである。
 小中学校の週5日制と総合学習の導入に伴い、博物館への実習見学も増加しているが、平均的な40人学級(男子20人)の1クラスに1人は、必ず色盲の児童生徒がいるという計算になる。またミュージアムの来館者が男女半々だと仮定すると、年間来館者数6万人の場合は1,500人以上が色盲の来館者ということになり、年間開館日を300日とすると、1日約5人に相当する。

■色盲(色覚障害)とは
 人間の目の網膜には3種類の錐体細胞があり、それぞれ赤、緑、または青を感じる視物質を持つ。このうちのどれか1種類の機能が損なわれた状態が色盲である。1種類を失っても残り2種類の錐体細胞があるので、これらを使って大半の色は見分けることができるが、特定の範囲の色については、差を感じにくくなる。
 色盲の人の大多数は、赤感受性の視物質の遺伝子に変異を生じた「第1色盲」(色盲全体の約25%)か、緑感受性の視物質の遺伝子に変異を生じた「第2色盲」(色盲全体の約75%)である。赤と緑の視物質は受光スペクトルの重複が大きいので、どちらが失われても似た症状になり、赤〜緑の波長域で色の差を感じにくくなるため「赤緑色盲」と総称される。また赤と緑の視物質遺伝子はどちらもX染色体に載っているので、症状は圧倒的に男性に多い。
 青感受性の視物質の遺伝子に変異を生じた「第3色盲」は色盲全体の約0.02%とまれである。黄〜青の波長域で色の差を感じにくくなるため、「青黄色盲」と呼ばれる。
 さらに非常にまれに、2つ以上の視物質に変異を生じた人も存在する。この場合、色を見分けることはできないので、「全色盲」と呼ばれる。
 なお色盲に関しては差別的表現を避ける意図から、「色弱」「色覚障害」「色覚異常」などさまざまな言い換えがされているが、本質的に同一のものであり、本発表では価値判断を排した客観的表現である「色盲」に統一する。

■色盲の人にはどのように色が見えるのか?
□大多数を占める赤緑色盲(第1色盲、第2色盲)の場合
(1)赤〜緑の波長域において、明度が類似した色の見分けが困難になる。「赤と緑」「黄緑と黄色」など。
(2)ある色と、それに赤または緑を足した色が、区別しにくくなる。「紫と青」「緑と茶色」「赤と茶色」「水色とピンク」など。
(3)彩度の高い色に比べ、彩度の低い色ではさらに識別が難しくなる。「灰色と淡い水色、薄緑」など。
(4)第1色盲では、最も長波長側の視物質に異常があるため、赤が暗く感じられる。そのため「濃い赤」はほとんど「黒」に見える。
(5)第2色盲では、まん中の波長域の視物質に異常があるが、この波長域は赤と青の視物質でもカバーされるため、緑が暗く感じられることはない。
(6)赤と緑の一方の視物質がない分だけ色の識別において青視物質に依存する度合いが高いため、青色への感度はむしろ高い面がある。色盲でない人には赤色が明るく目に飛び込み、青が沈んで見える傾向があるが、逆に色盲の人には赤が沈み、青色が明るく目に飛び込んでくる傾向がある。
(7)色の識別が苦手な分、明度や彩度の差にはむしろ敏感であり、同系色の明暗の識別には支障は少ない。たとえば地図の段彩が、同じ明るさで緑→黄緑→黄色などになっていると区別できないが、暗緑→緑→明るい緑になっていれば区別できる。
(8)大半の色が問題なく区別できているため、区別できていないところにさらに色分けがあるとは考えない傾向がある。そのため色分けに気付かないことがある。
□青黄色盲(第3色盲)の場合
 色盲でない人は3つの視物質のうち赤と緑からの情報を重点的に色識別に利用し、青からの情報の比重は相対的に低い。そのため青視物質がない第3色盲の人の色の感じ方は、色盲でない人に比較的近い。
□全色盲の場合
 モノクロ画像になると考えて良い。
□白内障の場合
 色盲とは直接関係ないが、高齢者に多い白内障では濁った水晶体の中で短波長の光が吸収されてしまうので、赤や緑はよく見えるが、青(などの短波長の色)だけが暗くなって見にくくなる。

■バリアフリーに向けた提言と具体的な改善例 
なるべく多くの色覚タイプに対応できるようにするためには、以下のような対策が重要である。

色に頼らなくても情報が得られるようにする。
単色でも理解できるようにする。
色以外の情報を付加する。

○シンボル等は同一形状で色だけを変えるのでなく、色数は少なくして形を変化させる。
○線を区別させるときは、色の違う実線同士でなく、実線、点線、波線などを色と組み合わせる。
○塗りには、色だけでなくハッチングを併用する。
○色と色の境界には、細い白線や黒線を入れて境界を明確にする。
○番号や略号を併用し、図の中と凡例の両方に記入する。
○文中で文字を強調するときは、文字色だけでなく書体を変えたり下線・斜体を加えたりする。

1.色情報を載せる線は太く、シンボルは大きくデザインする。
  色の付いた部分が大きいほど見分けやすくなる。
2.混同されやすい色の組み合わせを避ける。
たとえば、赤と緑の組み合わせでなく、赤紫(マゼンタ)と緑の組み合わせを利用する。赤〜緑の範囲から2色を選ばず、赤〜緑と緑〜青のそれぞれの側から1色ずつ選ぶようにする。
3.色合い(色相)だけでなく、見た目の明るさを大きく変化させる。
たとえば、同じ明るさの赤と青でなく、赤と空色や明るいオレンジと青を組み合わせる。3色以上ならば、明るい色、中間の色、暗い色を組み合わせる。
 註:なおここで言う明るさとは、色相・明度・彩度の意味での明度ではなく、「目にうつる明るさ」のことである。実用上は、モノクロ写真にしても区別ができるような色を選ぶ、ということになる。これによって全色盲にもある程度対応できる。
4.なるべく彩度・飽和度の高い色同士を対比させるか、彩度の高い色と低い色を対比させる。彩度の低い色同士を対比させない。
  たとえば、原色同士や、パステルカラーと原色を対比させるのはよいが、パステルカラー同士の対比はよくない。
5.第1色盲の人は赤が暗く、黒に近く見えるので、濃い赤のかわりに明るい朱色を用いる。白内障では青が見えにくくなるので、青系統ではなるべく明るい色を用いる。
6.見分けにくい色では色名を間違えることがあるので、色名を認識することを来館者に要求しない。
 ・説明文で、「緑は○○」などと色だけで対象を示さない。
 ・配布ワークシートや説明員の解説において、来館者に色名を答えさせる質問をしない。
 ・凡例には、色だけでなくその色名も記入すると良い。
7.色を区別できなくても支障がない場面では、自由に色を選ぶ。
色盲の人に配慮するあまり、色数の限られた味気ない展示になってしまっては意味がない。
 重要なことは、色盲の人に分かりやすい(バリアフリー)色づかいは、色盲でない人にも分かりやすい(ユニバーサル)という点である。色覚バリアフリー化は、配色決定時にわずかな気配りをするだけで、追加のコストをいっさいかけずに達成できる。この大きな特長を有効に活用していただきたい。

■まとめ
 本学会員の多くは、ミュージアムの展示や商業デザインに関わっている。ミュージアムでは、解説パネルの中でさまざまな情報を正確に伝達することが求められ、商業デザインの場では商品やサービスの情報がより多くの人に確実に伝わることが求められている。そのような立場の方々に、色覚バリアフリーについて理解と共感をいただき、誰にでもわかりやすいユニバーサルな色彩表現が広まっていくことを望んでいる。

★本研究にあたっては、岡部正隆氏(国立遺伝学研究所)の多大なご協力を得ました。
[URL: http://www.nig.ac.jp/labs/DevGen/shikimou.html

 
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